Sake Samuraiに聞いた 日本酒最新事情
Vol. 77
レストランで1本$1000以上の日本酒「Dassai Beyond獺祭 その先へ」が注目され、さらにもっと高価な酒が出現し、日本酒の様子が少し変わってきた。ラベルもワインに似たものや、英語名をあしらったデザインなど、世界市場を視野に入れた物も多くなった。
そこで日本酒の最新事情を、「Sake Samurai酒侍*」に、聞いた。
*日本酒造青年協議会が、日本酒の魅力を世界に広めるために任命した、酒の親善大使。
個性豊かな日本酒が続々と
以前、鑑評会で勝てる日本酒の黄金率は“YK35”と言われていました。原料米は酒米のキング「Yamadanishiki山田錦」、酵母は「Kyoukaikobo協会酵母9号」を使い、Yamadanishikiを35%の小ささになるまで削って作った大吟醸酒の多くが、鑑評会で金賞を受賞しました。いずれも華やかで豊かな香りと、澄んだ味わいが人気を博していたのです。
ところが最近の傾向はその逆。地元の米と、地域の気候や風土に合わせて作った酵母を使った酒が増えたのです。その結果、個性豊かな酒がたくさん出てきました。以前は、毎年で安定した味の酒造りに努めてきた酒蔵が、最近は米の状態や気候の違いを最大限に活かし、年ごとに違う味わいの酒を、敢えて出しています。今回立ち寄った、秋田の酒蔵「新政Aaramasa」さんは、まさに新世代ともいえる、非常に面白いお酒を造っています。個性豊かだからこそ、それぞれの味の価値が高まり、数量も限定で希少価値も出てきました。日本酒がワインのようにテロワールを語られるようになったのです。
高い酒は旨いのか?
ずばり、高い日本酒は美味しいですよ!ワインには時々、値段と味の兼ね合いにがっかりすることがありますが、日本酒にはその傾向は少ないです。ぶどうをそのまま発酵させて造るワインは、自然を活かしたものが良いとされる一方、日本酒は、米、水、酵母、麹を使い、多くの工程をそれぞれのプロが担う、どちらかというと加工品に近いんです。
高い酒がうまい訳
① 一番高値が付く大吟醸種は、原材料の米をとことん削ります。93%も削ってしまい、芯の部分7%しか使わないものもあります。ほとんど削ってしまうのですから、原料費が高くなります。
② 手間をかけています。米を水に浸すのも精米歩合によって微妙な違いがありますし、酵母の研究にも時間がかかります。そして麹の発酵でも最適な期間を見極める技術が必要です。
③ 時間や温度、湿度を細かくコントロールして熟成させます。
原料、手間、時間をかけて造った酒はどうしても値段が高くなりますが、味は裏切りません。最近は、1本$3000~$4000なんて酒もあり、美味しいですよ。
美味しさは一つではない
米を削り込んで造る大吟醸酒は、香り豊かで、すっきりと清んだ美味しい酒であることは間違いありません。一方、米をあまり削らない吟醸酒は、米を大きなまま使うので、大吟醸より値段は少し安くなりますが、穀物の深い旨味や甘味が楽しめる、実に美味しいお酒です。すっきりと清んだ美味しさだけでない、別の美味しさも、もっと皆さんに知っていただきたいと思っています。
中華料理と日本酒は合う
酸味との相性があまり良くないワインと比べると、甘み、酸味、苦み、旨味がバランス良く入っている日本酒は、どんな味付けの料理とも合わせやすいのが特徴です。特に、旨味に敏感な中華料理との相性は抜群。味の濃い原酒は、油料理とも合います。また、辛口の純米酒は餃子や小籠包などにも合います。
これからの日本酒
すっきりきれいな水のような酒か、旨味や深みが複雑に絡み合う酒かの両極化が進むでしょう。特に旨味を追求した、辛口や甘口ではなく「うま口」と名乗る酒も出てきています。幻の米を使った新しい酒も出てくるかもしれません。楽しみですね。
Sake Samurai
Toshio Ueno 上野俊男
Mutual Trading / Sake School of America Vice President
きき酒師、焼酎きき酒師、日本酒学講師、ビールアドバイザー、ワインソムリエ。Napa Culinary Institute of America Greystone、Napa Valley College、Cal Poly Pomona Collins College日本酒客員講師.
Certified Sake Educator, Wine & Spirits Education Trust / Certified Sommelier, The Court of Master Sommelier / French Wine Scholar, French Wine Society / Certified Italian Wine, North American Sommelier Association / Certified Sommelier, International Wine Guild / Advance Award, Wine & Spirits Education Trust
Sake School www.sakeschoolofamerica.com
日本酒のプロを目指す、飲食店、小売業、ワインショップ、ホテルなどに従事する人向けの教育機関。酒アドバイザー、酒ソムリエの証書を得ることが出来るため、事業の地位向上に役立つ。一般の人でも受講可能。